東京地方裁判所 昭和28年(ワ)6256号・昭28年(ワ)8044号 判決
原告 片岡末太郎 外二名
被告 房総天然瓦斯工業株式会社
当事者参加人 椙村一男 外一名
一、主 文
1 昭和二十八年五月四日東京都港区芝田村町一丁目二番地日産館地下談話室において開催の被告会社通常株主総会における家永文彦、椙村一男、衛藤干城を夫々取締役に、千葉保雄を監査役に選任する旨の決議が存在しないことを確認する。
2 昭和二十八年五月十三日前項掲記の日産館地下談話室において開催の被告会社臨時株主総会における本店を東京都世田ケ谷区代田一丁目七百二十三番地に移転する旨並びに、定款第三条を、「当会社は本店を東京都世田ケ谷に置く」、と変更する旨の決議が存在しないことを確認する。
3 訴訟費用は五分しその四を参加人の負担とし、其の余の訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、その請求原因として
一、原告片岡末太郎は、被告会社の株式七千五百株、同刀根豊之助は同株式二千五百株、同片岡喜久は、同株式千株を所有する被告会社の株主である。
二、被告会社は、昭和二十八年五月四日東京都港区芝田村町一丁目二番地日産館地下談話室において、通常株主総会を開催し、家永文彦、参加人椙村一男同衛藤干城を夫々取締役に、千葉保雄を監査役に選任する旨の決議をし、同月十三日右談話室において臨時株主総会を開催し本店を東京都墨田区東両国一丁目一番地から同都世田ケ谷区代田一丁目七百二十三番地に移転する旨、並びに、定款第三条を、「当会社は本店を東京都世田ケ谷区に置く」と変更する旨の決議をした。
一、右の二回に亘る株主総会の決議は、いづれも、左記の理由によつて、法律上存在しないものである。
(1) 五月四日の株主総会の招集者は、原告片岡末太郎、及び、参加人椙村一男となつており、原告片岡末太郎は当時被告会社の代表取締役であつたが、同人はこの総会招集のための取総役会に出席したことも、従つて、斯る総会招集の決議に加わつたこともなく、又総会の招集通知に記名捺印した事実なく、即ち、右総会を招集したことがないところ、参加人椙村一男は、当時被告会社の取締役ではあつたが代表権限を有していなかつたので同人には総会招集の権限がなく、前記総会は結局権限のないものの招集に係るものであつて、斯る総会における決議は、法律上存在しないものである。
(2) 右総会並びに五月十三日の総会に出席して前記決議をなしたのは株主と称する家永文彦、椙村一男、衛藤干城、千葉保雄の四名であつて、同人等は当時被告会社の全株式五万株を所有していたことゝなつているが、真実は右株式を全く所有していたものでなく、従つて右総会の決議は株主でないものの集合によつてなされたものであつて被告会社の株主総会ということはできないので、右総会における決議は法律上被告会社の株主総会の決議といい得ない。
と述べ
参加人等の主張事実に対し、「訴外亡片岡三千造(昭和二十八年七月十八日死亡)が被告会社の全株式の処分権を有し、訴外家永文彦に、参加人等主張日時に、その主張の通り株式の譲渡をしたこと、従つて参加人等及び右訴外家永文彦同千葉保雄が参加人等主張の通り被告会社の株主であること、及び参加人椙村一男がその主張日時に専務取締役に選任せられたことはいづれも否認する。被告会社が、参加人等主張日時に設立せられ資本の額がその主張の通りであることは認める。参加人等は、株式の譲渡を主張するが被告会社は、参加人等主張の通り未だ株券の発行をしていないから、商法第二百四条第二項により株券発行前の株式の譲渡として被告会社に対し効力を認め得ず、又右株式譲渡は株金払込領収証等の交付によるものでなく、同譲渡については会社に対し名義書換の請求もなく、従つて株主名簿上の名義書換もないので、斯る譲渡を以つて法律上適当な方法による株式の譲渡が行われたものということはできない」と述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として
被告会社が、原告主張日時に、その主張の如き株主総会を開催し、その主張の如き決議をしたことは認めるが、原告その余の主張事実はすべて否認する。
と述べた。<立証省略>
参加人等訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、その原因として、
一、被告会社は、昭和二十四年十月二十日設立された資本の額五百万円、発行済株式の総数五万株の株式会社である。
二、訴外片岡三千造は、被告会社の発行済株式の過半数を所有する株主であり、且被告会社の全株式につき譲渡その他処分することにつき一切の権限を有し、代表取締役として会社の全権を握つていたが、被告会社の経営につき失態をひきおこし被告会社の経営困難となつたため、訴外家永文彦に右会社の経営を一任することになり、昭和二十八年四月三日被告会社承認の下にその所有する株式及びその余の被告会社の株式全部を譲渡し、同日右家永文彦は、参加人椙村一男に一万株同衛藤干城に五千株、訴外千葉保雄に五千株を夫々譲渡した。従つて原告等は、被告会社の株主でなく、被告会社の株主は訴外家永文彦(三万株)同千葉保雄(五千株)参加人椙村一男(一万株)同衛藤干城(五千株)の四名である。
三、五月四日の株主総会について
昭和二十八年五月二日代表取締役片岡末太郎及び専務取締役椙村一男の両名で被告会社の第七期決算報告承認に関する件及び取締役、監査役全員(但し片岡三千造は、同年四月三日辞任した)任期満了による取締役、監査役改選の件を議題とする通常株主総会を招集する通知を発し、右招集に基いて同月四日東京都港区芝田村町一丁目二番地日産館地下談話室に株主家永文彦、同椙村一男、同衛藤干城、同千葉保雄が出席して、取締役に家永文彦、椙村一男、衛藤干城を夫々選任し、監査役に千葉保雄を選任する決議をなした。参加人椙村一男は、昭和二十六年十二月一日、被告会社株主総会において取締役に選任され、同日取締役会において専務取締役に選任されたので被告会社の定款第二十六条によると「取締役会は、決議をもつて、会社を代表する取締役として、社長並びに専務取締役各一名を選任するものとする」と規定されており而も被告会社においては共同代表の定がないから、被告会社の代表取締役として単独で被告会社を代表する権限及び被告会社の業務を執行する権限を有するものである。従つて総会を招集するには参加人椙村一男の名をもつてすれば足るものであるが、先に主張した全株式譲渡に関する契約の趣旨を体し且登記簿上代表取締役であつた原告片岡末太郎の名を連ねたものに過ぎない。以上の理由により本件株主総会は適法且有効なものである。
四、右総会終了後取締役会を開催し、訴外家永文彦参加人椙村一男を被告会社の代表取締役に選任する旨の決議がなされた。
五、五月十三日の株主総会について
訴外家永文彦、参加人椙村一男は、昭和二十八年五月十三日前記日産館地下談話室に臨時株主総会を招集したところ、前記株主全員出席し、(但し家永文彦は椙村一男に委任状を交付した)被告会社の本店を東京都世田ケ谷区代田一丁目七百二十三番地に移転する旨、及び、同会社の定款第三条を「当会社は本店を東京都世田ケ谷区に置く」と変更する旨の決議をした。右総会は権限ある代表取締役により招集され、株主全員出席の下になされたものであるから適法且有効な決議である。
六、株券発行前の株式譲渡の効力について
被告会社は設立以来未だ株券を発行していない。商法第二百四条第二項は、「株券発行前になしたる株式の譲渡は会社に対しその効力を生ぜず」と規定するが、昭和二十五年法律第一六七号商法の一部を改正する法律において、従来裏書によらない株式の譲渡は、取得者の氏名を株券上に記載しなければ、その取得を以て会社その他の第三者に対抗し得ないとしていたのを廃止し、又会社成立後遅滞なく株券を発行することを要求し、同時に株式の自由譲渡性を保証する趣旨からすれば、商法第二百四条第二項の規定は会社が成立後遅滞なく株券を発行することを前提とした規定であつて、同項にいう株式の譲渡とは会社が成立後通常株券を発行し得る合理的時期以前における株式の譲渡を意味するものである。従つて本件のように会社成立以来三年有余を経過して、なお株券の発行がない場合は、適当な方法により参加人主張のように株式譲渡がなされ、会社において、これを承認した事実がある以上、右株式譲渡は適法有効になされたものであつて参加人等及び訴外家永文彦同千葉保雄はその主張の日に被告会社の株主となつたものである。
と述べた。<立証省略>
三、理 由
一、被告会社が、昭和二十四年十月二十日設立せられた資本の額五百万円、発行済株式の総数五万株の株式会社であることは、原告、参加人の間には争がなく、被告においても明かに争はぬところである。
二、被告会社が、昭和二十八年五月四日東京都港区芝田村町一丁目二番地日産館地下談話室において通常株主総会を開催し請求趣旨第一項の如き決議をしたこと、同年五月十三日右同所において、臨時株主総会を開催し、請求趣旨第二項の如き決議をしたことは、当事者間に争のないところである。
三、右、五月四日及び五月十三日の総会に株主として出席した者が家永文彦椙村一男、衛藤干城、千葉保雄の四名のみで、(但し五月十三日の総会では、家永文彦は椙村一男に議決権を委任して代理出席せしめた。)同四名の株式の合計は被告会社の発行済株式の総数である五万株とされていることは、原告並びに参加人の間には争がなく被告も亦明かに争はぬところである。
四、然るに被告及び参加人等は原告が現に被告会社の株主であることを争い、且つ、参加人等はその主張の日に前項の四名において被告会社の全株式を取得し、株主として本件決議をなしたのであると主張するので、事実の存否は一応差し置き、参加人等の主張に基いて便宜先ず同株式取得の効力について判断する。
被告会社が未だ株券を発行していないことは、原告及び参加人等の間に争がなく、被告も又明に争はないので、前記争点となる各株式の譲渡は株券発行前の株式の譲渡であることが明であるところ、商法第二百四条第二項の法意は、株券発行前の株式の譲渡は、少くともその発行に至るまでは単に会社に対抗できないのみならず、会社もこれを認め得ない趣旨と解すべきであるから、参加人等主張のように、本件の場合株券の発行がなくてもその発行があつたものと同一に扱うべきものと解し得ない限り、前記株式の譲渡は被告会社に対する関係においてもその効力がないものというべきである。
ところで、参加人等は右条項にいう株式の譲渡とは会社成立後通常株券を発行し得る合理的時期以前のものをいゝ、右時期後の株式の譲渡は、現実の株券発行後の場合と同様会社に対する関係においても有効であると主張するが、第一に、右法条の立法趣旨は、改正前の商法の場合と異なり、やゝ明確を欠くきらいがないではないが、株券発行前の株式の譲渡を認めるときは譲渡方式に一定されたものがないのでその効力の判定上混乱を生ずること、及び株主の頻繁な交替により株券の発行事務上株券の印刷その他に当り支障を来すこと等をおそれ、それを除くための考慮に出たものと解されるところ、これ等の混乱と支障とを除くためには、現実の株券の発行がなくてはその目的を達せられず、多くの場合、株券発行前、株金払込領収証の授受により株式を譲渡する商慣習があるとしても右慣習は右の方法による株式譲渡を以つて株券の一般発行前会社に対抗し得ることをも含むものとする資料は未だ得られないのみならず、同慣習の存在する一事を以つて同慣習によらない場合をも含め前記法条の立法趣旨とするところを全面的に解消する理由とはなし得ないこと、(本件の場合参加人等主張の株式譲渡は株金払込領収証によるものではないとの原告主張を参加人等は明に争わない。)第二に、仮に参加人等主張のように解するとすれば、その主張のいわゆる株券を発行し得る合理的時期の算定は会社の規模、時及び場所等諸般の事情により区々に亘り、そのために法律関係を複雑混乱に陥れしめること、第三に、会社成立後遅滞なく株券の発行がない場合は、株主に株券交付請求権があることは当然であつて、この場合の株主の保護は一応不十分ながら考慮されており、この権利を行使する多少の不便と不利との故に株券発行前の株式譲渡の効力を定めた前記法条の立法趣旨に変更を加え、更に株式取引に予想される混乱のおそれを敢て無視してまでも、相当時期以後には現実の株券発行がなくても、それがあつたと同様に取り扱い得るものとする理由に乏しいこと等を考慮すれば、商法第二百四条第二項の法意を到底参加人等の主張のように解することができない。従つて、前記参加人等主張の株式の譲渡は被告会社においてその効力を認め得ないものといわねばならない。
五、而して成立に争のない甲第二号証、証人野口忠爾の証言並びに原告本人片岡末太郎及び同刀根豊之助の各尋問の結果によりその成立を認める甲第五号証の二及び四、同第六号証の六、同第九号証、右証言及び各本人尋問の結果によれば、原告はいずれもその主張のとおり現に被告会社の株主であることを認め得られる。
六、然らば、本件各総会決議は被告会社の株主でない者によつてなされた法律上不存在のものといわねばならないので、原告の本件請求を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十三条に則り主文の通り判決する。
(裁判官 畔上英治 岡田辰雄 西村法)